あった。橋が開通したら騒々しくなるだろうからと、最後の静かな生月を楽しみに長崎から友人夫妻が遊びに来た。夕刻、島に着いた彼らを桟橋で迎え、その足で夕日を見に行くことにした。我々は断崖に到着し、日本最西端の海に沈む夕日を眺め、最後の光点が消え去るまで立ち尽くした。黄金にきらめき立った海は徐々にその光を失い、潮騒の中、黒々とたゆたい始めた。見晴らせば、はるか対馬の方角までびっしりと海を埋め尽くす漁り火がいっせいに現れ海と空の境を分けた。空にはポツポツと星が見え始め、しばらくのうちにおびただしい数の星が現れた。空はすっかり暗くなり残照の余韻は消えていた。少し海風が強くなってきた頃、星を見上げる友人に、そろそろ帰ろうかと声をかけた。そのとき、北北西の方角にかすかな光点が右上方にゆっくりと移動しているのが目に入った。「人工衛星かな。それにしてはゆっくりだね。」と友人が聞いてきた。じっと見ているとその光点は右上に移動しているのではなく、徐々に私たちのいる方へ近づいて来るように思えた。そしてだんだんと輝きを増し移動のスピードを上げてきた。私は一瞬ぞっとした。それは私たちに向かって高速で接近して来たのだ。そして、その先端は長くまばゆい光の尾を引いて断崖上から五〇〇メートル遠方45度の上空に至った。その時白い光の先端はパーンと白と緑の光に割れ斜めに散った。続いて緑の光は赤と緑に二分した。それは星の花火が超高速で接近し空中高く炸裂したかの光景であった。そしてそれら一連の光景はまったくの無音であった。私たちはしばらく声もなかった。隕石の落下かとも疑われたが、あんなにゆっくりと近づく流れ星もあるわけがなかった。結局私たちはその不思議な体験に何の説明もつけられないまま、灯台の灯かりに時折ぼんやりと浮かぶオオバエの断崖をあとにした。
私はもう一つ不思議な光景を目にした。確か平成四年一月の冷え込みの厳しい晴れた夜事であった。床につこうとしていた矢先、深夜友人から電話があった。何事かといぶかる私に、彼
光柱現象[松本直弥撮影]
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